2025年6月9日

事業承継 たぬき本舗株式会社

【事業承継インタビュー】「たぬきまんじゅう」の灯を未来へ繋ぐ。異業種からの挑戦と、老舗の味を守り抜く決意とは。
~たぬき本舗 森 達正 現社長インタビュー~

今回の事業承継インタビューは先代社長から第三者承継にて会社を引き継がれた、たぬき本舗の森 達正社長へのインタビュー記事になります。

「たぬき本舗」さまのご紹介
市内で長年愛される銘菓「たぬきまんじゅう」を製造・販売するたぬき本舗さま。可愛らしいたぬきの形と素朴で優しい味わいで、地元だけでなく全国にもファンを持つ老舗です。伝統の味を守りつつ、新たな挑戦を続ける現社長に、事業承継の経緯と想いを伺いました。
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本日はお忙しい中、ありがとうございます。早速ですが、事業承継の経緯についてお聞かせください。

◇承継前の状況~決断に至るまで
– 承継前はどのようなお仕事をされていたのですか?
「以前はスポーツ店を経営しており、和菓子の世界とは全く無縁の場所にいました。」
– それが、なぜ和菓子屋の事業承継を?しかも第三者承継という形を選ばれたのでしょうか。
「実は、もともと私自身が『たぬきまんじゅう』の大ファンだったんです。あの素朴で優しい味が大好きでしたから、この味がなくなってしまうかもしれないという状況は、ファンとしてとても寂しいものでした。」
– 事業承継という言葉自体もご存知なかったそうですね。どのような経緯で引き継ぐことになったのですか?
「そうなんです。事業承継なんて言葉も知りませんでしたし、ましてや自分が引き継ぐなんて考えもしていませんでした。ただ、この美味しい『たぬきまんじゅう』がなくなってしまうこと、そして何よりもお客様がこの味をもう楽しめなくなることが残念でならなくて。その思いを何度も先代社長にお伝えしていたんです。そうこうしているうちに、先代社長から『それなら、あなたが引き継いでくれないか』というお話をいただいたのがきっかけです。」
– まさに熱意が通じたのですね。最終的に引き継ぐことを決断された一番の理由は何だったのでしょうか。
「やはり、先代社長からの後押しが大きかったですね。そして、この『たぬきまんじゅう』という素晴らしいお菓子を未来へ繋いでいきたいという強い思い。それが最終的な決め手となりました。」

いつもスポーティーな森社長

◇承継のプロセス~具体的な道のり
– 先代社長との面談はどのような雰囲気でしたか?
「初めてきちんとお話しさせていただいた際、先代社長から『あなたが思うようにやってほしい』という温かい言葉をいただきました。その一言で、肩の荷が下りたというか、とても気が楽になったのを覚えています。」
– 承継のお話は具体的にどのように進んでいったのですか?
「幸いなことに、メインバンクが県内で事業承継先を探していらっしゃったんです。そのご縁もあり、銀行が全面的にバックアップしてくださることになりました。これは本当に心強かったです。」
– 周囲の方々、例えば従業員の方や取引先、ご家族の反応はいかがでしたか?
「従業員の中には、やはり不安を感じる者もいました。しかし、そこは先代社長が当初、間に入ってくださり、丁寧にコミュニケーションを取ることで、スムーズに理解を得ることができました。取引先の皆様には、一軒一軒ご挨拶に回り、事情をご説明し、ご理解をいただくことができました。家族も、私の熱意を理解し、応援してくれました。」
– 異業種からの参入ということで、経営に対する不安は大きかったのではないでしょうか。
「もともとスポーツ店経営で『モノを仕入れて売る』という商売の目利きには自信がありましたし、『たぬきまんじゅう』は絶対に売れるという確信もありました。ただ、やはり製造や品質管理、そしてマーケティングといった分野は全くの未経験でしたから、そこに関しては大きな不安がありましたね。」
– 7月に事業を引き継がれ、12月下旬には商品出荷という、約5ヶ月という短期間での事業開始は大変だったかと思います。
「はい、本当に時間との戦いでした。不安がなかったと言えば嘘になりますが、周囲のサポート、特に先代社長や従業員、そして銀行の方々の力強い支えがあったからこそ、第二創業とも言えるスタートを切ることができたと思っています。」

◇承継後の経営~現在と未来
– 承継後、特に大変だったことは何でしょうか?
「経営自体は順調にスタートを切れたのですが、すぐにコロナ禍に見舞われました。世の中全体の動きが止まり、私たちの経営もあっという間に圧迫されてしまいました。これは本当に厳しい試練でしたね。」
– そのような厳しい状況の中で、経営者として特に大事にされたことは何ですか?
「何よりも、商品を販売してくださっているお客様、つまり販売店様を大事にすることを片時も忘れませんでした。皆様、たぬき饅頭のために貴重な陳列棚のスペースを割いてくださっているわけです。ですから、賞味期限が近づいた商品はこまめに回収し、常に新しい商品をお届けするように徹底しました。先が見えない状況ではありましたが、こうした地道な活動が、結果的に信頼関係の構築に繋がったのではないかと考えています。」
– 経営を引き継がれてから、特に印象に残っている出来事はありますか?
「はい、『たぬきまんじゅう』の上代変更が特に印象を強くもっています。率直に言って150%の値上げをしたことです。これも、取引先を一軒一軒回り、原材料費の高騰などの状況をご説明し、ご理解をいただきました。ある時、東京駅の催事で出店していた際に、お客様から『このクオリティで今の価格は安すぎるよ』というお声を直接いただいたんです。その一言が、値上げに対する不安を自信に変え、そして確信へと繋げてくれました。」
– そして、今後の展望についてお聞かせください。
「現状に満足することなく、常に未来を見据えた経営を心掛けています。まだまだ、日本全国の方々に『たぬきまんじゅう』の味をお届けするには至っていません。そのためには、マーケティング戦略が非常に重要だと考えています。例えば、北陸地方や東北地方の方々にも、ぜひ一度『たぬきまんじゅう』を味わっていただき、その美味しさを理解し、ファンになっていただきたい。そうした地域の方々にどのように商品を知っていただくか、承継後にはパッケージの変更を実施しましたが、来月にはさらに新たなパッケージへの変更を予定しています。これは、お客様に常に新鮮な印象を与え、手に取っていただけるきっかけになればと考えてのことです。伝統の味を守りながらも、時代に合わせて変化し続けること、それが老舗の味を未来へと繋ぐために不可欠だと信じています。」

◇第三者承継についてメッセージ
– 最後に、事業承継を考えている経営者の皆様、あるいは第三者承継で会社を引き継ごうと考えている経営者の皆様へメッセージをお願いします。
「どうしても日々の経営では目先の利益に目が行きがちですが、それだけでは事業の本質を見失ってしまうことがあります。大切なのは、先代が築き上げてきた意思やその会社の歴史を深く理解し、その文化をしっかりと承継していくという気持ちです。私の場合は、『たぬきまんじゅう』という素晴らしい銘菓を次の世代に伝承したいという強い気持ち、そしてこの味を地元だけでなく、日本中、さらには世界中の人々に知ってもらいたいという大きな夢があります。その結果として、引き継ぐ前の売上を超えることが、先代や関係者の皆様への一番の恩返しになると信じて、日々努力を続けています。」

– 「たぬきまんじゅう」への深い愛情と、未来への熱い想いが伝わってきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。